讃:伊福部昭 郢曲「鬢多々良」「交響譚詩」

 

NHKの「にっぽんの芸能」という番組はときどきとてもおもしろいので、録画して観るようにしている。

 

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芸能という括りなので日本舞踊から歌舞伎と週によって取り上げる題材はさまざまなのだけれど、2014年の秋ぐらいに伊福部昭の特集を組んでいた。これがおもしろかった。

 

伊福部昭は……

 

おそらく日本人で知らぬ者はいない現代音楽家のひとり。「ゴジラのテーマ」を作った人、といえば「あっ!」となること間違いなしではなかろうか。

 

その伊福部昭を、「にっぽんの芸能」という視点で切り取ったのがこの回の番組。ゴジラのゴの字も出さずに、純和風の交響楽を成立させた第一人者として、彼の郢曲「鬢多々良」と「交響譚詩」を取り上げ、紹介していた。これが見事に邦楽とシンフォニーのフュージョンだったのだ。

 

 

「交響譚詩」は1943年に完成した管弦楽曲で、次兄・勲に捧げられている。2楽章からなり、彼の作品として初めてレコード化された。

 

 

 

郢曲「鬢多々良」は1973年(昭和48年)、59歳の作品。邦楽器合奏曲とされ、郢曲(えいきょく)とは宮廷音楽の「歌いもの」の総称だが、彼はそれをインストゥルメンタルで表現した。

編成は、篠笛2、竜笛、能管、篳篥、笙、小鼓2,大鼓、楽太鼓、筑前琵琶、薩摩琵琶、箏3、十七絃箏の16名。彼はラジオのインタビューで「これは邦楽ではなく郢曲」と答えているので、はっきり別の音楽であることを意識して作っていたようだ。室町中期にはほぼ絶えてしまった命脈を現代音楽として蘇らせたのが、この「鬢多々良」であることを思えば感慨深さもひとしおだ。