森本恭正『西洋音楽論 クラシックに狂気を聴け』[reading memo]

サブカル世代の自分としては、ものごとを裏から見るというのはアタリマエの作業だったような気がするのだが、その後の高度経済成長期では「生きづらい」思いをすることも多く、そのはけ口として書き手という別人格を利用してきたような気がする。

音楽は、「美」という絶対的な観念が基準となるはずだからブレようもないと思っていたのに、意外と時代背景に左右されることに気づいたのは、戦後が終わったとされる1990年代のことだろうか。それまでは、終戦という混乱のなかで噴出したイデオロギーが自滅しあう断末魔の叫びを聞き続けるという、見ている分にはスリルがあったかもしれないが、当事者としてはやりきれない時期だったのではないかと思う。もちろん、ボクは当事者ではなかったが。

こうして当事者から外れた世代がようやく周囲を見渡せるようになって、それまでの「常識」に棹をさせる地位と機会を得られるようになってきた。

本書は、音楽のなかでもガチガチの先入観に閉じ込められていたクラシック音楽に、新たな光を当てようとする、文化論的な音楽論の一種と言える。

おそらく、現代で取り上げられ「クラシック音楽」と呼ばれる音楽は、すでに前時代のガチガチに規制された儀式のためのアイテムではないため、ポピュラー音楽と同列で分析することが正しいのだろう。しかし、それまでは非ポピュラー音楽的な倫理や哲学で論じられてきたのだから、違和感を感じても不思議ではない。

本書では、その違和感の源泉がどこにあるのかを明らかにし、自分と等身大の音楽の付き合い方を始めることができる尺度を見つけるためのヒントが多くある。

勢い、ポピュラー音楽の代表であったジャズにも言及せざるを得なくなるのは前述の理由によるものだが、その一文も興味深いので、転記しておきたい。

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