音楽サブスクへの不満は音楽ライター業界の底上げになるかもしれない

DIMEの記事で、「音楽プラットフォームの「サブスク」には、楽曲やアーティストに関しての情報がほとんどないことが、決定的な欠陥」と指摘する内容の続編が興味深いものでした。

サブスクに欠けている部分に核心があった

聴き放題が「6500万曲」もあるのに音楽サブスクリプションサービスに不満を感じる理由・続編|@DIME

ジャズは、鑑賞にあたって「情報」ともっとも濃密な音楽ジャンルといえるでしょう。同じメンバーの演奏でも録音日が1日違えば違う音楽になりうるのがジャズです。極論すれば、その違いを楽しむ音楽とも言えます。同じメンバーによる同じ曲の録音日違いヴァージョンは珍しくありません。ですからいつ誰が作った曲を誰と演奏したのかが、CDには必ず記載されています。しかしサブスクには、それらの曲が並んでいても区別するテキスト・データがありません。プレイリストも同様で、情報はタイトルだけです。これでは満足がいかないのも当然と言えるでしょう。もちろん他ジャンルでも程度の違いはあれ情報不足は同様です。情報がなければ、どんな絶対名曲でも一過性の「BGM」なのです。

この指摘はとても的確で、まさにこの「違い」を分析しながらアーティストや演奏の全体像を創造していくことが、JAZZ評論でありジャズ解説だと思っています。

プレイリストを作っていてもの足りなかった部分

ボクもときどきプレイリストを作ってみたくなります。

でも、大抵は途中で飽きてしまうんですね。何度も挫折しているので、根本的な問題があるのだということがわかってきました。

それを端的に説明しているのが、前記の引用部分なのではないかと思い当たったわけです。

自分で作ろうとするプレイリストには、流れや前後の関係性を重視します。それはつまり、なぜその曲がそこにあるのかが重要だと考えているからです。

プレイリストにはタイトルを付けることができるので、ある程度、そうした流れやセレクションの基準みたいなものをアノニマスな聴き手に伝えることはできるのかもしれません。でも、それだけだと心許ない。その心許なさが、プレイリストを完成させようという集中力を邪魔してしまうようなのです。

聴きたい曲が簡単に手に入る時代だからこそ

かつて、音楽を聴くには装置と音源が必要でした。オーディオは高価で、音源もいちいち購入しなければなりませんでした。

それがいまではポチッとすれば電話代わりの掌サイズの装置で再生できて、サブスクであればポチッという手間さえ必要ありません。

音源をひとつひとつ購入しなければならない時代は、その購入のための情報が必要でした。レコードは決して安価ではなかったことも理由になります。

しかし、サブスクなら、とりあえず聴いてみることができます。気に入ったらそのまま保存して、気に入らなければ削除すればいいだけです。

そういう時代を予感させるころ、「音楽ライターという仕事はなくなるんじゃないか」と言われたことがあります。面倒くさい解説なんかを読むより聴けばわかるんだから、と。

ところが、音源があふれると、逆に理由付けへの要求が高まってくるんですね。
ということで、ぜひ心ある人は音楽ライターへの道をめざしていただきたい。まあ、決して歩きやすい道ではないですが(笑)。