本人による解説
素晴らしいプレイヤーたちとのライブ演奏は本当に素晴らしい経験です。
そのいっぽうで、自分ひとりで自分の音をどこまでも探求してみたい、という思いもずっと持ちつづけてきました。
自分の中から湧き上がる様々な音を表現していきたいと思っています。
原始的な反復のなかから生み出される本能的な情動の“祈り”──「Flute Chanting」について by 富澤えいち
フルートでチャントした、と題された動画作品。
チャントというワードが目に入り、すぐに思い出したのは、グレゴリアン・チャントでした。
グレゴリオ聖歌と訳されるその宗教音楽は、ローマ・カトリック教会の基軸をなす聖歌で、無伴奏かつ単旋律という特徴をもっています。
グレゴリオ聖歌といえば、ヤン・ガルバレクとヒリヤード・アンサンブルがコラボレーションした作品(『オフィチウム』1994年、『ムネモシュネ』1999年、『オフィチウム・ノヴム』2010年)が印象に強く残っています。
が、ここではキース・ジャレットのヨーロピアン・クァルテットの一員でもあったヤン・ガルバレクと竹内直の共通性や、グレゴリオ聖歌とこの「Flute Chanting」については言及しません(したいけど)。
ただ、チャントにはグレゴリオ聖歌のような複雑なものだけでなく、もっとプリミティヴ(原始的)なものがあり、それが世界中で見られる音楽的な現象でもあり、どちらかといえばこっちのほうが一般的だということ。
竹内直に関係づけるとすればこのほうが重要で、南北のアメリカ大陸からアフリカ大陸にまで足を伸ばして活動/吸収してきた竹内直の音楽性との関係性は“深い”と指摘するべきでしょう。
チャントは世界各地で自然発生的に存在する“節”と同意であるとも言われます。
宴席で手拍子とともに歌われる祝い歌のように、2つか3つの音程を使った単純なリフを繰り返す“節”は、日本でも各地に残っています。
そして、この動画を語る際に重要なキーワードがもうひとつ。
ループマシン(ループ・システム、ルーパー)とは、音を加工するエフェクター(音響効果を与えるための機器)のひとつで、入力された一定時間の音を半永久的に繰り返して再生することができます。いくつかのフレーズを記憶させて、それを重ねることは“サウンド・オン・サウンド”と呼ばれています。
竹内直の試みは、このループマシンを使って、チャントのスタイルで、どんな音楽が生まれるか──という“音楽家らしい興味の発露”と言えるでしょう。
ループマシンを使った楽曲はすでに多くの演奏者によって発表されています。それを大別すると、すでにその演奏者(作曲者と言い換えてもいいでしょう)の頭のなかで完成している楽曲を再現するためにループマシンの機能を使うものと、ループマシンを重ねることによって生まれる偶発的な“なにか”を起点にして楽曲を展開していこうというものがあると考えています。
竹内直の場合は後者。それはまた、彼がインプロヴァイザーであるからこそ、その本能が求めた方法論といえるかもしれません。
そう感じさせるのがエンディングの一コマです。踊ると決めていたから踊るのではなく、踊らざるをえなくなっている……。
上半身のワンカメラだけの映像ですが、それだけに“考えている瞬間”と“感じて反応している瞬間”が“見えてくる映像”でもあると言るでしょう。そのあたりも楽しんでいただきたいと思います。
プロフィール
竹内直(ts, fl, bcl)
1977、1986年にニューヨークに滞在。Jazz Center of NewYorkに自己のバンドで出演。
帰国後、エルビン・ジョーンズ(ds)・ジャパニーズ・ジャズマシーンに参加。フレディ・ハバード(tp)と共演。
1991年、ブラジルに渡りリオデジャネイロでサンバやボサノバを吸収する。
2002年には山下洋輔ユニットの一員としてヨーロッパ・ツアーを敢行。
2002年、来日したビル・クリントン前米国大統領の歓迎晩餐会でサキソフォビアのメンバーとして、メイン・ステー ジを務め、 クリントン氏から賞賛される。
2008年、セネガルに滞在し、世界的打楽器オーケストラのドゥ・ドゥ・ンジャイ・ファミリーと親交を深める。
2008年、天河神社にて奉納演奏。
2019年、ドキュメンタリーMVが「International peace & Film Festival 2020」のオフィシャルセレクションに選ばれる。
リーダーアルバムとして最新作「バラード」を含む11枚をリリース。現在、ジャズフェスティバル、野外コンサート、全国のライブハウスなどで演奏。NHKセッションなどのFM番組にも、出演多数。
竹内直WEBサイト http://takeuchinao.com/
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以下のサイトで「Flute Chanting」のチケットを購入していただくと、その売り上げから諸経費を引いた金額を演奏者にお渡しします。
➡PASSyour マーケット
あまびえジャズ祭ってなんだ?
あまびえジャズ祭へようこそ!
このジャズ祭は、新型コロナウイルス感染症対策でSTAY HOMEしているジャズ好きのみなさんのために、演奏者の方々に協力していただいて、好きなときに好きなようにジャズの動画を楽しんでいただこうと思って始めた企画です。
基本は演奏者が自分で選んだ動画を観ていただくというだけの祭です。
そこにほんのちょっと、音楽ライターの私が講釈を加えます。
ならぬ堪忍するが堪忍という現在の状況ですが、堪忍袋の緒を緩めてくれるジャズの楽しみを、この機会に広げていただければ幸いです。
なお、演奏者で賛同いただけましたら、ぜひエントリーください。
説明ページはこのリンク先にあります。➡ 説明ページ