【あまびえジャズ祭参加作品】「Virgo」「You are my everything」by 荒武裕一朗トリオ

曲のデータ

「Virgo」
荒武裕一朗(p)三嶋大輝(b)本田珠也(ds)
2016.5.27 新宿Pit inn

「You are my everything」
荒武裕一朗(p)冨樫マコト(b)今泉総之輔(ds)
2019.11.28 新宿Pit inn

ピアノ・トリオの自由度を試す斟酌無しのアプローチ──「Virgo」「You are my everything」について by 富澤えいち

荒武裕一朗との大きな関わりは、2004年に遡ります。彼のソロ・ピアノ作品『THE LIGHT FLOWS IN』(2005年)のレコーディングを見せてもらい、そのライナーノーツを受け持つことになったのです。

都内某所のスタジオに2日間通って、彼がベーゼンドルファーと格闘する姿や、まったく指向性の違うゲストを迎えてのテイクで違った表現方法を探ろうとするようすを盗み見しながら、その音楽性をボクなりに知ろうとしたことが記憶に残っています。

彼とは、アルバム・デビュー作『I DIG IT!』(2002年)のディスク・レヴューを担当したことで連絡を取り合うようになり、折々に近況を伝えてもらうようになっていました。

そして、2017年の近況報告は「15年ぶりにピアノ・トリオのアルバムを出します」というものだったり、2019年の新年に送られてきたダイレクト・メッセージには「来週、相模湖にある音楽ホールでレコーディングするんですけど……」とあったから、あわててスケジュールを調整して見学させてもらったりもしました。

15年ぶりのピアノ・トリオ作品『TIME FOR A CHANGE』や2019年の『CONSTANT AS THE NORTHERN STAR』という作品に投影されるまでもなく、荒武裕一朗の最近の音楽的な興味はピアノ・トリオにあるといっていいでしょう。

ジャズにとって、ピアノとベースとドラムスによる三重合奏は、永遠の課題ともいうべき難問です。

理屈としては、ジャズ黎明期にピアノの曲芸的な演奏がエンタテインメントとして突出し、次第にコード進行を複雑にして進化させる段階で、ルート(根音)を見失わないようにベースを、ジャズらしいスウィングのリズムを強化するためにドラムスを、それぞれ組み合わせようとしたことから──という想像には至るのですが、それ以上にサウンドのバランスと(ピアニストにとっての)自由度の高さがあったことが、このフォーマットに固執する演奏家の多さに現われているのではないでしょうか。

つまり、荒武裕一朗もそのひとり。

ただ、そうした自由度の高さをリスナーと共有するためには、例えば最初に耳なじみのあるメロディを提示して、それを崩していくというアプローチのほうが“伝わりやすい”というのは確かで、多くの演奏家もそうした方法論を採ることが多いと思います。

しかし、彼はそうしない。

最初から、彼が曲と語り合って出した“結論”を、ほとんど斟酌無しにぶつけてくるのです。

リスナーに聞かせるための音楽ではなく、曲に向き合った結果の音楽──。

そんな“結果”が良いのか悪いのかを、アナタの耳で確かめてみてください。

プロフィール

荒武裕一朗 (piano)

1974年宮崎市生まれ。

ビクター音楽コンクールで優秀賞受賞。

学生時代に本田竹広氏のピアノに心酔し、福村博(tb)氏にジャズ理論を師事。

単身NYで研鑽を積み、菊池雅章氏にレッスンを受ける。

これまでにリーダーアルバム7枚を発表。

2008年唯一の日本人として欧州ツアーメンバーとして単身ヨーロッパへ招聘され、オランダ国内をはじめドイツ・ベルギーでのコンサートで好評を博する。

音楽イベント「Music make us one !! 」主宰。

2012年歌手・米良美一と横須賀芸術劇場大ホールにて共演。

2013年1月東京・新国立劇場で芸術監督D.Bintley「ダイナミック・ダンス」音楽監修・共演。

2017年Trioとして15年ぶりとなる6枚目『Time For A Change』を本田珠也氏をドラムに迎えてピアノトリオを発表。

2019年には前作アンサーアルバム『Constant as the northern star』を発表した。

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あまびえジャズ祭ってなんだ?

あまびえジャズ祭へようこそ!

このジャズ祭は、新型コロナウイルス感染症対策でSTAY HOMEしているジャズ好きのみなさんのために、演奏者の方々に協力していただいて、好きなときに好きなようにジャズの動画を楽しんでいただこうと思って始めた企画です。

基本は演奏者が自分で選んだ動画を観ていただくというだけの祭です。

そこにほんのちょっと、音楽ライターの私が講釈を加えます。

ならぬ堪忍するが堪忍という現在の状況ですが、堪忍袋の緒を緩めてくれるジャズの楽しみを、この機会に広げていただければ幸いです。

なお、演奏者で賛同いただけましたら、ぜひエントリーください。
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