音楽産業が推し進めてきたデジタル化の功罪を総括すべき時期が来ていることをアップルが主導してきたマーケットの翳りが物語っているようだ

 

「音楽」を変えたアップルが、自らも音楽ビジネスを失う危機に」という記事を読んでいたら、デジタル化が音楽を身近なものにしたのではなく、遠ざけてしまったかもしれないという結果が出ていることを改めて考えなければいけない状況になっていると思わざるを得なくなってしまった。

 

5630090047_5922a8afeb_m photo by mislav-m

 

気軽に音楽に触れることができるツールとして……

 

デジタルはとても有効なものであることに変わりはないのだろうが、主に販売チャネルの変革を目的として取り入れられてきたこの方法が、逆に流通総量を減らしてしまうという弊害を生む原因になっていることは、以前から指摘されてきた。

 

もともと音楽は芸術的価値を高めていくベクトルとBGMとして広く浅く活用されるベクトルがしのぎを削っているようなところがある。

 

ポピュラー音楽のシーンでは“消費財”と揶揄されるように、短期的な需要の高まりによる利益の拡大を優先させることを目的として制作される作品も多い。

 

こうした短期的な“商品”としての利益率を高めるために、在庫と流通といった物理的な問題をすべてクリアしてくれるデジタルの導入は“革命的”だった。

 

しかし、デジタルによる流通サイクルの短縮化は、消費者にとって便利であるとともに、商品の寿命も短縮してしまったわけだ。

 

デジタルによる「もっと手軽に音楽を買ってもらえる」という業界側の希望に対して、消費者は「手軽にいつでも買えるんだから」と集中力を薄めてしまい、購買頻度を下げてしまった。

 

ジャズなどのマニアックなジャンルに関しては、ヒット・チューンとしての側面も備えた一部の作品はあるものの、全般的にロングテールのマーケットに位置していると言っていいだろう。

 

アナログ回帰やハイレゾ化の傾向も強まるなど、“気軽に簡単”というこれまでのデジタルの波に逆らってマーケットを維持しようとしているのがジャズなのかもしれない。

 

アップルでは、Microsoftによって囲われているビジネス・マーケットと直接対決を避け、趣味のフィールドでシェアを伸ばす戦略を取ってきた。その牙城であるはずの音楽マーケットが自滅していく兆候を見せているのは見過ごせないに違いない。

 

iPodの製品ラインナップの見直しもあり、これからどのような方針を打ち出してくるのか、音楽産業の先行きにも影響するだけにアップルの動向は気になるところだ。