「【追悼】俵山昌之はさまざまな音楽が乗降する“駅”を仕切る名人芸を見せてくれたベーシストだった」という記事をYahoo!ニュース個人にアップしました!

富澤えいちの執筆担当記事の紹介です。

俵山昌之さんには、2013年と14年、タワー・ステーションの1枚目と2枚目のリリースのタイミングで話を聞くことが出来ました。

AZOOとかサムライ・ビバップのエピソードは割愛していますが、なかなか聞くことが出来ない経歴を話していただき、とても印象に残っています。

オフレコの話も多かったのですが(笑)。

ご冥福をお祈りいたします。

以下は、取材した2枚のディスク・レヴュー。

タワー・ステーション『タワー・ステーション』

笑顔と元気を持ち寄ったメンバーたちの交流点

 益田幹夫トリオに参加するなど1990年代初頭から頭角を現し、大野雄二&ルパンティック・ファイヴに約8年在籍、その後もJジャズの牽引役として活動の幅を広げてきたベーシストの俵山昌之率いる“タワー・ステーション”の1stアルバム。バンド名は俵山が“タワちゃん(さん)”と呼ばれ親しまれていること+自分たちの音楽が駅(ステーション)のような交流の場や心の拠り所になればという願いを込めて付けられた。メンバーの選択は俵山が参加していた異なるプロジェクトの面々からだが、東日本大震災直後に「自分にもなにかできることはないか」と考えていたときに浮かんだ顔ぶれという。リーダー・バンドを初めて組む彼の脳裏に投影されたバンドのイメージは、それまで彼が共演によって蓄積してきた感触をもとに再構築されたスムースでポップなサウンドが土台となり、細部ではジャズ・ミュージシャンならではのコダワリがいたるところに潜んでいて、イージー・リスニングと呼ばせない密度の濃さを滲ませることになった。全体的に「ソロは短め、ベースも控えめ」と語っていた俵山だが、「オリエンタル・ウォーク」ではドラム・スティックを用いた独自のチョッパー奏法をおりまぜながらソロ・パフォーマンスを披露するなどベース・マニアも大満足の内容で、笑顔と元気にあふれた1枚にまとまっている。<富澤えいち>

タワー・ステーション『タワー・ステーション II』

“ならではの空気感”を共有するブラジリアンの新展開

 俵山昌之、福井ともみ、藤井学というJジャズを支えるリズムセクションに、太田剣と太田朱美が正式に加入してリスタートしたタワー・ステーションのセカンド・アルバム。前作はこのバンドのメイン・コンセプトであるブラジリアン・ジャズを前面に出し、スムースで親しみやすいサウンドを確立させたが、本作では路線を踏襲しながらもダブル太田のフロントによるアンサンブルに厚みが増して、軽みと聴きごたえのある重量感をバランス良く両立させている。俵山のオリジナルを中心に構成されるタワー・ステーションでは、彼がこのバンドでしか表現できない“楽しさ”という基準に照らし合わせて曲を選ぶとのことだが、メンバーがそのイメージをしっかり共有して思い思いの“楽しさ”を追加しているところに、このバンドならではの妙味が生まれる。セッション・スタイルでは出すことのできない空気感を大切にしようとするこうしたスタイルは、リーダーシップもさることながらメンバーシップの賜物といえるだろう。カヴァー曲の「ブルー・ボッサ」はケニー・ドーハムが盟友ジョー・ヘンダーソンのアルバムのために贈ったブラジリアン・ジャズを代表する名曲だが、福井はこのイメージを払拭してアレンジし、従来のブラジリアン風なテイストを脱却した新たなバンドの方向性を示し得た。展開が楽しみな第2幕だ。<富澤えいち>