近未来なのだろうか、その世界では1日のある時間になると
国民が一斉に指定の椅子に座り、音楽を聴かなければならない。
「音楽浴」と呼ばれるこの行事を終えると、国民の誰もが
「同一の国家観念に燃え、同一の熱心さで職務に励むようにな」り、
統治者の思い通りになるというのだ。
「まるで器械人間と同じ」ように――。
「音楽浴」の発明者であるコハク博士は、その影響の大きさを
知っていたために、30分以上の「音楽浴」を禁じていたが、
統治者はさらなる効果を求めて「音楽浴」を増やすように
仕組んでいく。そして罠にハマった博士が・・・。
この後の展開はSFサスペンス風の読み物としておもしろい
のですが、ボクが興味をもったのは「音楽が人間の
意欲を左右させる」という設定でした。
この掌編は、1946年に発行されたもので、終戦直後にこうした
SFミステリがあったということだけでもびっくりなのですが、
軍国主義を未来に転化して反映したシチュエーション以上に、
音楽が脳に与える影響を的確に捉えたモチーフが
斬新です。
最近読んでいる音楽と脳科学に関する本では、
実際に音楽が脳の働きと密接に関係していることが
実証されていることを示されているので、
それを半世紀以上前に予知してストーリーに仕立てた
海野十三という作家の発想に、改めて敬意を表したく
なりました。