4年ほど前、それまで住んでいたところを引き払って、まったく違うライフ・スタイルにしようと決心したときに、ジャズ・ライターの仕事に影響する恐れがあったので、落ち着くまで取材などを控えるように編集部にお願いしたりしていた。
当然、収入はなくなるわけで、コンビニのアルバイトも考えたが、ダメもとで昔働いていた編集プロダクションに連絡してみると「雇ってあげる」と言われたので、お世話になることにした。
40代後半の正社員を雇用するのは、その会社にとっても負担が大きかったと思うので、その点ではとても感謝している。
労働基準局の指導によって、年齢による最低賃金の縛りがある。ボクは月10万円程度のアルバイト代でいいと思っていたのだが、フル勤務であればそういうわけにもいかないのだそうだ。
結局、額面で35万円という月給で「まあ、1年くらい、ようすをみてみましょう」ということで働き出した。
自分の会社は休眠状態にして、月給をもらう生活というのを25年ぶりくらいに体験したのだが、その体験から言わせてもらえれば、日本の雇用体制は矛盾だらけで、かなり経済の足を引っ張っていると感じた。
勤めは10カ月ほどで常務から「ほかの社員に悪い影響があるから」というよくわからない理由で解雇され(社員が50人以上いるその業界では大手だった)、ボクは会社理由の解雇として退社後2週間ほどから(一応、審査の申請をしなければならなかったので、翌日からはもらえなかったのだ)90日分の失業保険をもらえることになったというオマケまでついた。ちなみに、失業保険は民主党の人気取り政策で60日間プラスされ、150日分も月収額面の半分ほどをいただけることになったのだが。
ということで、それ以来、雇用問題に興味をもって調べているうちに出遭ったのが本書。
ダッチモデルが気になった。
著者の見解では、ニュースで喧伝されている雇用状況とは逆のことが浮かび上がっていることが興味深い。
転職の難しさは、失業保険のシステムをみても同意できる。ヘッドハンティングで翌日から賃金が保証されて違う会社に移らないかぎり、少なくとも自己理由での退社に因る職探しでは、1カ月で勤め先が見つかったとしても2カ月の無給期間が生じる。つまり、3カ月以上の生活費と、そのほかに就職活動に費やせる蓄えがなければ、実際には転職できないというのが現実だ。
会社側の雇用体制の変化は、そのほとんどが会社および経営にとって都合のよいように変えられていく。ゲームのディーラーは会社なのだから、ルールはギャラリーの手の届かないところで作られるのだ。
雇用問題が語られるときに「弱者」というキーワードを使うメディアがあるのだけれど、ボクは当事者意識が薄いこの言葉が嫌いだ。ほとんどの会社員は、薄氷の上で日々を暮らし、下を見ないようにして、ミシミシといういまにも割れそうな音に耳を塞いで暮らしている。
先述したように、ルールは会社側の作っているから、いくらその矛盾を指摘しても、あまり役には立たない。
こうした問題を掘り起こすたびに、合法的な自己救済のできるアイデアと柔軟性を身につける必要性をヒシヒシと感じてしまうのだ。
その意味においても、警鐘を鳴らしてくれる本書の意義は大きい。